ムロヤ×山本寛氏対談「リサーチのプロに聞く、認知施策の重要さ」

今回はメルマガの特別企画です。
ムロヤ 2023.09.14
読者限定

以前にこんなメルマガを書いていたくらい、マーケティングリサーチの重要性、威力を日々感じながら生きています。

皆さんもマーケティングリサーチは大事だと漠然とわかっているものの、具体的にどうしたらいいんですかという悩みはございませんか?

今回はメルマガの特別企画です。

マーケティングリサーチのプロフェッショナルをお呼びしました。株式会社オリエンタルランド(東京ディズニーリゾート)などで辣腕をふるってきた山本寛さんです。マーケティングリサーチとは、そもそもマーケティングで大事なこととは……ムロヤとの対談インタビューをお届けします。1万文字弱の特大ボリュームですので、休憩時間にじっくり読んでいただければと思います!

<山本寛氏 プロフィール>

慶應義塾法学部政治学科卒業後、株式会社オリエンタルランド(東京ディズニーリゾート)に就職し、マーケティング部門でリサーチを担当。以降マーケティングリサーチャーとしてのキャリアを歩み、2017年に大手人材サービス会社に転職して中途採用領域をメインに活動したのち、2023年に総合エンターテイメント企業へ再び転職。現在は副業として個人でもリサーチ業務を請け負う。2021年12月よりProSessionのコンサルタントとして参画。

「相手を理解する」ことがマーケティングの基本

ムロヤ「今日はよろしくお願いいたします。今回、『マーケティングリサーチってなんぞや』というところから、読んだ人が行動の変化を起こすきっかけになればいいなと思っています。まずお聞きしたいのが『マーケティングリサーチの投資を軽視していると起き得ること』について山本さんにお伺いしたいです。」

山本「こちらこそよろしくお願いいたします。

まず、マーケティングリサーチの話の前に『マーケティングって何?』という話から入っていければと思います。マーケティングの厳密な定義は協会さんが定めておられますが、それを私流にすごく大雑把に解釈して、“相手に喜んでもらいながら、お取引を続けていただく仕組みづくり”ということと考えています。これくらいシンプルに考えていいかなと。

相手に喜んでもらうためには、まずは相手を知らなければいけない。人間性とか人物像とか好みとか、そういったところを知るからこそ、相手に喜んでもらうために何をしたらいいのかを考えることができます。

こういった材料を真摯に集めていかないと、そのうち独りよがりになってしまう。

突然恋愛の話になってしまうんですけど、好きな人ができたら、一生懸命相手の事を考えるじゃないですか。例えば『いったいあの人はどんなことが好きで、どんなプレゼントをしたら喜んでくれるのかな』ということを考えたときに、普段の行動や会話とか、周りの人からの情報を統合した上で、『あ、きっとこういうことをしたら喜んでくれるだろうなと』と、仮説を立ててこれをチャレンジしに行きますよね。

要は相手に好きになってもらうとか、相手に喜んでもらうためには、相手に関する情報を不断に収集して、何か洞察なりなんなりをずっとしていかないといけない。そうしないと相手を喜ばせ続けること、喜んでもらい続けることはできないと思ってまして。

だから、本来必要な『マーケティング投資をケチる』というのは、洞察のための情報の収集をサボることであり、それは喜んでもらうことを放棄したのと同義なんです」

人間って弱いので、どこかで思考をさぼって、自分がこれ好きだから相手も好きだろうってなって、それが外れると「わかってねぇなこいつ」みたいな反応をしてしまうとか。そういうことに陥らないために、マーケティング投資、マーケティングリサーチの投資は必要かなというのが自分の考えです。

ムロヤ「ありがとうございます。贈り物の例えは分かりやすくてすごくいいですね!どうやったら喜んでいただけるかってことですし。

よくあるWEBマーケティングでつまづく人の特徴で、いつも見れる管理画面上の数字で判断しちゃうのがあると思うのですよね。SEOであれば検索順位や表示回数やクリック率とかCVRなどは見れるのですが、管理画面のその先の人間を思い浮かべられていないと、数字の解釈とか施策がズレてしまうことはあるなと思っています。日常の施策の連発で忙殺されてKPIに追われてしまって、人間が見えなくなってしまい全く刺さらないベネフィットを提案しているということになっていきますよね。」

山本「自分がこれが好きだからきっとあの子もこれを好きだろうと“売り手の独りよがり”になってしまうと、いつのまにか顧客も離れてしまうのかなと思ってます」

ムロヤ「私自身もマーケという仕事をはじめて10年弱になりますが、昔のことを思い返してみると、ちゃんとはじめにマーケティングリサーチをしっかり投資をしておけば、その後の施策立案時の迷う時間や、誤った意思決定による無駄な投資も減るなぁと痛感するばかりです。そのカテゴリにおいてどういった競合がいるのか、どこのメディアでどうアロケーションするかや、どのベネフィットを提案したら選んでくれるかなどなどありますし。」

山本「目先の数字って日次とか時間によってフラフラ動くんですけど、顧客のターゲット像がわかっていれば、短絡的に『こっちが伸びたから、一気に投資だ』みたいなことにはならないと思うんですよね。単なる日々のブレは当然あるわけで、それに惑わされてしまうと無駄な投資やコストが生じてしまうと思います。」

「非常に満足」という回答の落とし穴

ムロヤ「次のご質問なんですが、山本さんがよく使うリサーチ手法をお聞きしたくて。なぜお聞きしてみたいかと言うと、定量調査とかいろいろあると思うんですが、普段どんなことをしているのか知っておいていればマーケターとリサーチャーの相互理解のとっかかりになるかなと思いまして。」

山本「そうですね。もちろん、トラディショナルなマーケティングリサーチになるんですが、基本的に二つの手法が中心で、『アンケート』と『インタビュー』です。主にアンケートが検証で、インタビューは仮説構築のためのもので、とくに私は取っ掛かりの部分で重要になるインタビューに力を入れています。

まずインタビューから入るのは、アンケート調査は大量のデータが集められて一見良さそうに思えますが、それが結局“サマリー”になるからなんですよね。」

ムロヤ「要約、いわゆるアバウトなものだと」

山本「たとえば、5段階の満足度調査をして、同じ数字でもAさんにとっての満足と、Bさんにとっての満足って、基準も違えば、種類も違うと思うんです。昔、テーマパークの会社で働いていた時、自分が満足したから『非常に満足』とつける方もいれば、自分は全然テーマパークが好きじゃないけど、子どもがものすごく喜んだから『非常に満足』とつける方もいました。意味合いが全然違いますよね。これを理解しないまままるっと『非常に満足』とまとめてしまうと、ゆくゆくは打ち手が見えなくなってしまう。

解像度を上げていくためにも、きちんとインタビューをして、『あなたにとってのテーマパークの満足とはどういうことですか』というお話を聴き、洞察するための材料を集めていくのが大事かなと思っています。

またアンケート調査ってお金がかかるので、無駄にしないためにもお金をかける前に解像度を上げておきたい。

ただ、そのためにわざわざカッチリとした定性調査をしなくてもよいケースもあります。そのテーマに関してある程度関与度がある友人知人から話を聞くだけでもいいと思ってます。」

ムロヤ「『定性調査!』とかしこまって言うんじゃなくて、一旦詳しそうな人に聞いてみよってかなってノリもいいんですね。」

山本「はいそうです。取っ掛りを得るためにも話を聞くことがとても大事かなと思っています。」

ムロヤ「ありがとうございます。あとはリサーチの醍醐味や真髄として、不都合な真実が見えることですとか、痛いことに耳を傾けないとだめという姿勢がありますよね。都合のいいナンバーワン調査はだめとか(笑)

ちなみに、マーケティングリサーチの本を見ると、統計やコレスポンデンス分析とかほにゃらら検定など小難しい専門用語が書かれた分析法が多く書かれているんですが、山本さんの中で『ここは抑えておくべき』みたいなのって何かありますか?」

山本「そうですね、ちょっと答えになってるかどうかわからないんですが、マーケティングリサーチの基本って、あるモノとあるモノ、またはある人とある人の差を見ることなんですね。それを意思決定に活用する。なので、何と何の差を、または誰と誰の差を見ればものが決められるのか『最初にしっかり設計する』ことがとにかく大事だと思っています。この最初の設計のところは、企画者であるご自身がマーケティングリサーチャーとうまく壁打ちしながら自分で考えるしかないところなのです。でも、そこをちゃんと考え抜ける人って、正直100人のうち5人いるかいないかって思ってるんですよ。

しかし、そこさえしっかりできてしまえば、あとのところはもう全然楽で、それこそ誰かに任せてしまってもいいです。マーケティングリサーチの実務として、「どれぐらいのサンプルサイズで、誰に対して回答していただいて、こんな設計でこんな設問を作ってみたいな」という部分は実務として任せてしまえばいいと思います。とにかく、始点となる「このような背景があってこのような目的で調査をするから、こことここに差があれば、元々考えていたことのエビデンスになるんじゃないか」というところさえ、しっかりやっていただければ大丈夫です!繰り返しになりますが、そこから先の実務的なところは、正直マーケティングリサーチャーに丸投げでもいいです。」

ムロヤ「なるほど。すごく勉強になります!」

マーケティングリサーチはあくまで「道具」

ムロヤ「また趣向を変えた質問をしたいんですが、マーケティングの名著とも言われている『ブランディングの科学』(バイロン・シャープ著)って、山本さんはどういう感想を持っていますか?結構個人的な興味でもあるんですが(笑)」

山本「感想としては『好き』です。私はあのシリーズについて、すごく『現場感』に溢れてるなと思ったんですよね。自分自身いろいろなデータ分析をしたんですけど、そこで見えてきたようなことがまんま載ってたりするんですよ。例えば『ダブル・ジョパディーの法則』については、市場浸透率が高いほど利用頻度が増えるというのは実際そうでした。身も蓋もない事実だなと(笑)。また、ある同一カテゴリのサービスごとの利用者構成比を見てみたんですけど、顧客プロファイルに差がなかったりするんですよね。「あれ、ない!」みたいな。これじゃちょっと打ち手が浮かばないな、などと思って困ったりもしたのですが、この書籍に書かれていることはすごく現場知に根ざしていると思いました。

あとは『パレートの法則』について触れていた箇所ですかね。書籍の内容は「パレートの法則通りの2対8にはなかなかならない」ということですが、実際のデータでも2対8になんか全然ならなくて(笑)」

ムロヤ「www」

山本「3対7とか4対6とかで。なんかロイヤリティの高いワインの顧客2割で8割の売り上げみたいなものはちょっと今までお目にかかったことがなく、それがかえって現場から理論を生み出していると感じることに繋がったのですよね。だからあの書籍の内容は安心して仕事に応用できます。書籍を読んだ同業の人に感想を聞いても同じような感想を持っていて、みな一様に納得しているんです。そういった意味で、一番ふさわしい感情を合わせると“好き”っていうことになりますかね(笑)」

ムロヤ「好きという感想になるとは思ってもいませんでした(笑) 話が脱線しましたが、世間一般には広まっているけど、懐疑的に思っているブランド調査の手法とかちょっとお伺いしたいなと思っています」

山本「あんまりないですね。というのは、マーケティングリサーチや分析は、こう言ってはなんですがあくまで『道具』なので、良し悪しは使い手の問題になってくると思ってるんですよ。例えば紙を切るのにハサミを使うのは当たり前のことだと思うんですけど、釘を打つのにハサミを使うのかっていったら使わないじゃないですか。調査の手法も同じで、最終的には判断は人がするものですが、シチュエーションに応じて使う側が吟味をすれば、そんなに使えないものっていうのはない……まあその上で、『多変量解析』は使いどころが難しいなって思うことが多いですが(笑)」

ムロヤ「どういった難しさがあるのですか?」

山本「多変量解析の大まかな定義としては、ある対象から得られたお互いに関連のある多種類のデータ(変数、変量)を総合的に要約したり、将来の数値を予測したりといった解析作業の総称、と捉えています。これはすごい威力を発揮する手法である一方、下手な使い方をすると、なんか『わかった気になっちゃう』んですよね。例えばクラスター分析(凝集法)をしても、事前に顧客理解をある程度深めて設計しないと、非現実的なクラスターに合わせて無理やり顧客理解をしようとして失敗するような、主客転倒に陥るケースもあるわけです。多変量解析という手法がどうこうというよりは、使い方が難しいなと」

ムロヤ「データ分析も、それっぽく理解してしまったら、思考停止しているのと同じことですよね」

山本「いくら威力を発揮する分析手法でも、使い方次第では先ほど話したような独りよがりな結論になりかねません。それは良くないなと」

「ブランディング投資」は真正面から腰を据える

ムロヤ「そして『認知施策』についてのお話に移りたいと思います。私もそうでしたが、顕在層に向けたマーケティング施策ばかりやってきた人にとっては未知の領域で、どのように効果測定したらいいかよくわからない悩みも多いと思います。テレビやPRなどに対して貢献度評価でよくやっていることですとか、消費財や耐久財やBtoBなどのカテゴリ別に何か認知度施策の評価の仕方や考え方をお聞きしたいです。

このご質問の背景として、顕在層マーケでよく使われるCPAはすごく分かりやすい指標ではあるのですが、ブランディングの場合はどの指標とどう見ればいいのか土地勘がなく躓いている人も多いと思います。何が原因でどのような結果をもたらしかのかの因果律がブラックボックスになっていると投資に踏み込めない人も多いですし。」

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