書評『マーケティングの真実』を読んで、コトラーのSTP否定論の代償について思ったこと

考えが深まる良い本でした
ムロヤ 2026.07.01
誰でも

「コトラーのSTPはもう古い」。そう言い切る人はきっと気持ちがいいのでしょう。ステータスを求める人間の本能にも刺さっているのでしょう。

火種となった名著『ブランディングの科学』をきっかけにこんな声を耳にするようになりましたが、あなたはここにモヤモヤすることはありませんでしたか?

「いやぁ、ポジショニングって便利に使える局面ってあったよな」と。

「狭すぎるポジショニングに居続けようとするのは確かに機会損失だけど、STP自体を定義することから得られるものってあるよな」と。

この名著『ブランディングの科学』の日本語版の監訳者で知られる元P&Gで元グリコの加藤巧さんは、STP理論を切り捨てませんでした。

この度、その加藤巧さんの初の著書『マーケティングの真実』という本を読みました。 (献本いただきました。献本されなくても、きっと買ってました)

今回のニュースレターは読書メモとして書いてみたいと思います。

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こんな人に刺さりそう

  • 事業成長のフェーズごとのポイントを押さえておきたい人(0→1、1→10、10→100)

  • 古典的なマーケティング理論とSTPと、現代的なマーケティング理論のCEPs(カテゴリーエントリーポイント)やDBAs(特徴的なブランド資産)などの関係をつなげて理解しておきたった人

  • 書籍『戦略ごっこ』で挫折した人

『戦略ごっこ』にも近しいことは書かれていましたが、あれは論文等のエビデンスが豊富に添えられていてるに対して、本書は実務家のエピソードも添えて書かれており、こちらの方がストーリー仕立てとしても理解しやすいコンテンツに仕立てられている印象でした。

意訳:コトラー理論とシャープ理論

まずは肝心のコトラー理論とシャープ理論の関係や使い分けについて、ざっくり意訳で解説します。意訳なので噛み砕きすぎてディテールを失ってるかもしれません。詳しく学びたい方は書籍を手にとってみてください。

STPは無用の長物じゃないっしょ

バイロン・シャープはSTPを切り捨てがちだが、実務では一定規模までSTPが便利だよ。

でもずっとSTP一本足打法で狭いポジショニングにい続けることは、事業成長にはつなげていけないよね

一方で、固定化したポジショニングに狭まりすぎる危うさもあるよね。面をどんどん広げていきたいなら、購入のきっかけを増やすCEP/メンタルアベイラビリティの発想は正しいよね。

CEPって洗い出そうと思ったら無数にあるよね。その統制のためにもSTPは便利よ。

ここが本書の背骨だと思っています。ポジショニングこそがブランドの楔(くさび)になるよと。

だってめっちゃCEPsって見つけようと思えば見つかるから。今やW’sフレームワークをつかえば、それっぽいものはChatGPTでも出せます。

参考記事:

マーケの本質を突く、室谷式「考えるプロンプト」初公開 CEPsも発掘:日経クロストレンド(この記事は2026年7月2日 6:48まで無料登録せずに読めます) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01323/00005/?gift=%252Baym%252FpMwnVPHnBL0uiHacuhQYde%252BolNwRHLlJBGfKUo%253D&n_cid=nbpnxr_gift

ただ問題なのは、どこから手をつけるか、どれとどれならハーモニーさせ続けられるかとか統制不能になること。この統制のためにもSTPを再定義し続けることは大事だよ。

会社として意思決定していく上でも。ブランドの設計図、マスタープラン的にね。意思決定の重心みたいなもんよ。

もう少し理解を助けるために、読者の紳士淑女の皆さんにとっては、私が今ハマりつつある「観葉植物」を例に解説を加えてみる。

  • 楔が「植物を育てる喜び・生命と暮らす豊かさ」ならフェイクグリーン(偽物の観葉植物)は調和しません

  • でも楔が「手間なく空間を緑で彩るインテリアグリーン」なら、フェイクグリーンは合いそうですね。日当たりが悪すぎるお家でも、ペットがいるお家でも扱いやすいという文脈になりますし。

無数のCEPに優先順位と整合性を与える統制装置として効くのだよ。それがないと社内だってまとまらんよ。

「どっちが正しいか」じゃない。「くさびをどこに打つか」という話。

こう思うとSTPは事業戦略と不可分ですね。ポジショニングについては事業推進するビジネスパーソンの必須科目。CEP選びじゃなくてカテゴリー定義の話になりますね。

シャープ理論では、どう喜んでもらうかの視点があんまりないじゃん。

シャープ理論のメンタルアベイラビリティやフィジカルアベイラビリティとかを矮小化してしまうと、ブランドが消費者の人生においてどのような意味を持ち、なぜ他の何者でもなくそのブランドでなければならないのかという設計へ繋げていけない。

思い浮かべやすいようにCEPs/DBAsも大事ですが、衝動買いが起きづらかったり、脳内に有利に認識してもらうためにもPODも大事。新興・弱小ブランドの初期こそここの設計が大事やんけ。鉄板の戦略が一点突破やんけ。

そうしておかないと、市場選定によっては「ああ、もうAとかBのブランドを知ってますし、眼中にないわ」と速攻で埋もれにいくことになるやんけ。すでに考慮集合(何を買おうかなの選択肢の脳内候補リスト)にワラワラとライバルがひしめいていたら、そこにINできないんや。覚えておく価値がない存在として認識されてまうやろ。PODは今度に選んでもらう確率を高めるための記憶の尖りの役割にもなるんや。消費者に「いい手札になりそうだわ♪」と思ってもらうんや。そして考慮集合にINするんや。そういう認知、知覚のされ方のためにも大事やんけ。

みんなP&Gマーケが効くわけないやんけ。商材によっても変われ方は違うし、フェーズによっても違う。

フェーズ(0→1/1→10/10→100億)や商材ジャンル(食品・ヘアケアなどのFMCG vs 無形・高額商材)によって最適解は大きく変わるよね。そこをちゃんとみておこう。

初期からCEPを戦略的にやろうとしても、ポッキーゲームの使われ方みたいに意図しない偶発的に生まれる消費者行動もあるからね。ただ、市場に出す上でも、はじめましての出会いになるんだから、「これはこういう人に向けて、こんな価値をご提供しまっせ」とSTPの定義はしておこう。ちゃんと理解されるようにしておこうよ。

印象に残ったポイント

7つ紹介していきます。

1:事例解説が鮮やかすぎて感動した

カテゴリーエントリーポイントの事例解説ではマクドナルドはよく使われますが、著者の加藤さんの解説は何段も上な印象を持った。朝マック、昼マック、夜マックみたいなベタなもの以外にも、ハッピーセットは子供を喜ばせた義務を果たしたい親心だったり、小さなご褒美のスイーツ系、背徳感な夜食、車内で子供が寝てしまっていてもドライブスルーで便利などなど。

2:リサーチの実例豊富で参考になる

また、こんな状況ではこんなリサーチをしたらいいとも示されており(認知未購入者、ブランド健康診断、定量調査でのドライバー特定など)、非常に参考になりました。

3、トライアルトライアルトライアル

ロイヤリティプログラムは罠という指摘。緻密すぎるCRMによるリピート促進の効果はいかほどに?的な。効果が本当にあるのか怪しいロイヤリティプログラムに夢中になるよりも、トライアル獲得や久しぶりの再購入(リトライ=広義のリピート)に目を向けましょうという指摘なその通り。未購入者向けコミュニケーションは、結果的に既存ユーザーにも効くしね。一石二鳥やんけ。購入者向けに狭いコミュニケーションをわざわざする必要はない。

また、ファンからUGCを産んでもらうにも、結局そのファンの一人をまず作るにもトライアルから始めないといかんという話ですから。リピートにはトライアルが必要。

4:CEP迷子を防ぐSTP、ポジショニングは楔(くさび)

先ほどの意訳でも触れましたが、CEPは大量に出せる時代だからこそ「どこから攻めるか」。6W1HでもChatGPTでも洗い出せる。要はポジショニングの一貫性に基づき、射程の中からCEPを選んで攻めること。射程というワード、概念の捉え方はすごくいいな。理解法として優れていると感じた。

5:競合ブランドの日本上陸阻止のエピソードがエグかった

第7章の日本リーバの「オーガニック」という競合シャンプーが日本市場に上陸してきそうなとき、その参入を阻むために、先回りして便益を押さえにいったり、まとめ買いさせてご家庭にストックを作っておき買う理由を与えないなど、すごいなと。FMCGは妨害工作だったり、認知をめぐる戦いが凄まじいなと。

CEPs解説のマクドナルドの事例解説も凄かったですが、こちらの競合対策のエピソードが凄過ぎた。戦争のアナロジーとか知見をフルに投入しているのだなと感じた。

経営やマーケティングは総合芸術だと捉えていますが、競争戦略においては戦争や生態系のアナロジーから考え方を借用するのがいいですね。

6:その手があったか!社内の共通理解づくりでの動画コンテンツ活用

ターゲットのペルソナを描いた動画を社内制作して理解を揃えているとのことで、動画コンテンツの社内活用はなるほどなぁと思いました。私はパワポとかWord文書とか謎に固定観念を持っていた。確かに認識合わせの伝達の手段といて動画はいいなと。どんどん動画コンテンツを活用していきたい。

7:時代に合わせた伝え方と、守るべきブランド資産の両立

オランジーナの例のようにパッケージを安易に変えすぎず、TVCMに固執せず現代メディアの動画プラットフォームやSNSなどデジタル発信を活用するなど。当たり前ですがしっかり徹底されてるなと。

この本のメッセージ

本には「はじめに」と「おわりに」がありますが、ここに思想が宿っているものです。

私は本屋さんで立ち読みする際、この二つをよく読んでいます。なぜこの本を書いたかのWhyが剥き出しになりやすいからです。

このように書かれていました。以下、刺さったところを抜粋。

本書の趣旨は、理論の言葉遊びや流行のキーワードに振り回され、勝手な解決が蔓延する現代の日本企業に対して、その正しい使い分けと運用のコツを伝授することにあります。理論の迷宮を抜け出し、確信を持って市場を切り開くための航海図を、ブランドの開発段階ごとに解き明かしていきます。

はじめに P16-17

しかし、最前線に立つ実務家にとって重要なのは、 どちらが正しいかという二者択一の議論ではありません。これら二つの知見を自社のフェーズや課題に合わせて最適に組み合わせ、成果を出すことです。

おわりに P252

そう、我々実務家にとって重要なのは「成果を出すこと」なんですよね。

どちらか正しいかという議論は不毛で、成果から目をそらす逃避行動になる。そして「理論の迷宮」に入ってしまう。

責任を引き受ける判断をしなさい、ということだと思いました。

そして「おわりに」には、魂が震えるようなフレーズが続いていました。

コトラー理論は、ブランドがなぜ存在するのかという問いに対して、顧客の共感を得るための強力なフレームワークを提供してくれます。

おわりに P252

人間にとっての幸せを命題にする感じが、ここはドラッカーにもなんか通じますよね。

今後、AIがどんどん普及すると、Howの実行はどんどんコモディティ化していくでしょう。フィジカルAIにも任せられることが増えるくるでしょう。

なぜこの事業か、誰の何を幸せにするのか、どの問いに答えると決めたのか。ここは機械はまだ供給できません。

そうなると、ビジネス行為そのものが自己表現活動に近づいていくと感じております。

そういう側面でもコトラー理論もいいなぁと感じたのでした。

コトラーの「なぜこのブランドか」は、まさに経営者に自己(価値観)の表明を要求するフレームなのですから。

だからAI時代にコトラー理論が再評価される。そんなことを思いました。

シャープ理論の代表格であるCEPs(カテゴリーエントリーポイント)における重点強化CEPsの選択とは、言い替えると「お客様の人生において、自社ブランドがどんな意味になるべきかの選択」、そんなふうにコネクティングドットして理解を助けてくれる本だなと思いました。

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